とやまの技 VOL.04

富山ガラス工房

ガラス/富山市古沢

工房開設30周年は ガラス文化醸成への入り口

2024年4月、富山市が運営する「富山ガラス工房」は開設30周年を迎えた。「富山ガラス造形研究所」(1991年開校)を卒業したガラス作家たちがスタッフとして働きながら制作活動を続けられるための自立支援と富山のガラス文化・産業の定着を目的に設立された工房だ。

ワークショップにて講師の技術を見つめるスタッフや研修生、作家

今でこそ「ガラスといえば富山」と国内外からも認知されているが、当初は共同工房とショップのみ。わずか10名からのスタートだった。開設時から携わってきた野田雄一名誉館長(2025年3月31日付で退任)の「場を作れば人が集まってくる」という信念のもと人材育成に取り組んできた。毎年開催される国内外で活躍する作家を招いたガラスフェスタをはじめ、さまざまな講座、市民向けの作品作り体験も実施。作家志望の若者を育てるとともに、一般の市民に向けてもオープンで親しみやすい工房を作り上げた。現在も工房では志を同じくするスタッフが刺激し合いながら制作や指導に当たっている。働きながら創作活動を続けられる場で安定して作家の道を目指せる環境を整えた意義は大きかった。

「才能のあるスタッフ皆にチャンスを与えたい」と前名誉館長の野田雄一さん

収入面に続き、若手ガラス作家にとって高いハードルとなるのが工房である。作品制作に必要な設備が高額なため、個人で工房を作り、維持・管理することは難しい。課題を解決すべく2004年10月には「レンタル工房」を新たに増設。これにより、若手作家でもわずかな資金で、いつでも創作活動ができるようになった。工房はデザイナー、アーティストとのコラボの場としても活用されている。

「レンタル工房」若手にとって借りられる恩恵は計り知れない

「体験には気づきがある。真剣に作るプロセスを経験することで、その人にとってガラスが単なる物体ではなくなる」と野田さん。一般市民への普及も作家を育てることと平行して力を注ぎ、ガラス文化の裾野を広げてきた。制作体験を行う「第2工房」(2012年開設)には、県内全域の小学生から大人までが自分だけの作品を作りに訪れる。近年、SNSで話題になったガラスのお寿司制作体験。アイデアの開発に携わったスタッフ横山海渡さんは「体験申し込みの電話が鳴り止まなかった」とその反響の大きさに驚いたと話す。改めてガラスの魅力を感じる出来事となった。

SNSで話題、精巧なガラスのお寿司——体験申し込みが殺到した

設備、制作場所の提供のほか、都市圏にある百貨店等での展示・企画販売といった地道な販路開拓も担ってきた。こうした手厚い富山市の支援体制も作家志望の若者を富山に引き寄せる推進力となっている。この30年間で工房や研究所を経て巣立ったガラス作家は約600名、富山に定住して制作を続ける作家も約100名にのぼる。野田さんは「まだ入口に入ったところ」と話す。ガラス作品が市民の日常使いとしてもっと浸透してほしいとも。これからも、多くの工房出身作家が富山を拠点に国境を越えて活躍して、より富山のガラス文化が輝きを増すのだろう。

富山ガラス工房

富山県富山市古沢152番地
営業時間 9:00~17:00
TEL 076-436-2600(代表) / 076-436-3322(体験受付)