KOGEI ✕ 富山 VOL.04

楽土庵

砺波市野村島

宿を通して土徳という精神風土に触れる

ロビーは伝統建築と民藝、
プロダクトデザイナーの灯りが共存する空間

堂々としたアズマダチ家屋の周りを水田が取り囲む散居村は、砺波地方に営々と受け継がれてきた稲作文化を象徴する風景である。「楽土庵」は、この築120年のアズマダチを再生、2022年にオープンした全3室の宿である。

松井機業(南砺市城端)のしけ絹を壁や天井に使った「絹ken」の部屋

楽土庵が他の宿やホテルと大きく違うのは「土徳」の精神をもって、訪れる人をもてなす姿勢である。土徳とは、人と自然がともに作りあげてきた土地がもつ品格のようなものを表す。昭和20年代、疎開中の棟方志功を訪ねた民藝運動の創始者、柳宗悦がこの地の自然とそれに感謝しながら生きる人々を表した言葉だと言われている。宿を運営する水と匠のプロデューサー林口砂里さん自身も、土地の人たちの何気ない言動に「豊かな自然の恵みへの感謝や自分はさておいても人のためを思う精神風土が根付いている」と感じるという。

ラウンジの一角に置かれた安川慶一のライティングビューロー

宿の伝統建築や室内の至る所に配置された民藝やアート作品。さらにオプションで用意されている地域の文化を体験できるさまざまなツアーを通して、地域の景観や文化、コミュニティとつながり、土徳を体感することができる。また、その精神風土を培ってきた散居村の保全と継承に宿泊料金の一部が保全の基金に充てられる点も、ここが単なる宿泊施設ではないことを物語っている。「人と自然がともに作り上げた美しさを持つ散居村は土徳の象徴であり、これを保全していくことが大切」と林口さんは話す。

展示されている工芸品は、一部を除いて購入できる

ジャスパー・モリソンの灯りに照らされた芹沢桂介の四曲屏風が来客を出迎える楽土庵のラウンジ。庭全体を作品にした内藤礼のインスタレーション「返礼」。客室は「紙shi」「絹ken」「土do」と名付けられ、それぞれの名前通りの素材を使用するとともに年代も国も多様な家具や作品、調度で設えられている。例えば「絹ken」の客室。二頭のカイコの繭から紡いだ絹糸で織る「しけ絹」を和紙に貼った壁や天井がレフ板のように柔らかな光を室内に取り込む。床の間には日本画家・石崎光瑤の一幅がかかり、窓際にはオーレ・ヴァンシャーの椅子、傍らには石川の酒蔵にあった棚が置かれる。それら一つ一つを選ぶ基準について、「作られた時代や地域が違っても、作り手のはからいを超えたところで作られる(土徳にも通ずる)他力美を備えたもの」であることと林口さん。ともすればちぐはぐになりがちな取り合わせを、共通の美を宿したもののみを選ぶ目をもって楽土庵を一つの心地よい空間へと作りあげている。

オリジナルグッズや民藝、現代アート作品が購入できるショップ

人と人、人と土地、工芸と現代アート。さまざまを繋ぐ美しい散居村の宿である。

楽土庵

富山県砺波市野村島645
TEL 0763-77-3315

https://www.rakudoan.jp/

Instagram Facebook