ARTIST INTERVIEW VOL.11

井波彫刻 前川大地

雲のごとく涌き 自在に姿を変える
表現への情熱

井波彫刻の伝統的なモチーフ“雲”を主役にした代表的作品や独特の雰囲気を帯びた木製シャンデリア、松竹梅のモチーフに彩色を施したスワッグ(壁飾り)。木彫の魅力や可能性を引き出す柔軟な発想と卓越したセンス、それを形にする技術を基に、彫刻家・前川大地さんの作品はいずれも伝統の中から生まれ、伸びやかに今を体現している。

KIN-NAKAの階段を飾る木製シャンデリア

井波彫刻師の父の元、井波で育ち、美大を卒業。その後ドイツに渡り、日本人アーティストのアシスタントを務めながら、好きだったヨーロッパの装飾文化に存分に触れる。帰国後は美術展示施工会社で美術館での展示設営の経験も得た。30歳を目前にふるさとに戻り、父を師として本格的な彫刻の修業に入った。こうした経験の一つ一つが、前川さんの言葉を借りれば「インプットしたものを自分なりに調理して出す」ことに繋がっているようだ。
その出し方(=創作手段)も彫刻に限らない。井波の町の歴史を決定づける一向一揆の戦の配置図を描き掛け軸にしたり、自身で陶土を捏ね地元で出土した縄文土器のレプリカを焼いたりとさまざま。作品を作るときは、まず「何を表現したいか、どういった伝え方が一番か」を考えるのだと。最適な方法で表現することが大切と語る前川さん。表現することへの情熱がジャンルを超え、制作する源になっている。

階段の手摺りを飾る彫刻

本業の彫刻では迷うことなく「自分の世界を見てもらう機会を持ちたい」と一言。今はクライアントワークに忙しく、なかなか自身の作品制作に着手できないが、その分アイデアは蓄積されているという。依頼された仕事は可能性を広げてもくれるが、そればかりでは自分の色が薄まる怖さもあるのだとか。「表現するものによって、バランスをとりながら職人と作家、そのどちらも両立させたい」と、今後の制作への意欲を示す。

瑞泉寺にあった擬洋風建築を見て育つ

さらに、こうした制作活動のほか「ジソウラボ」や「IPPA」、「プロジェクト0」といった地域づくりや地域産業を支える活動にも参画。井波の町を形づくる彫刻の部分だけではなく、高齢化がすすむ“木の産業”の仕組みを変えていくことや若い人材の育成にも取り組んでいる。
歴史好きだという前川さん。個の力を発揮するアーティストとしての活動も大切だが、井波が培ってきた伝統を継承することにもロマンを感じるという。「長い年月の1パートを担うことが幸せ」と、柔らかな笑みを浮かべる。西洋と東洋、過去と未来、伝統と革新。いろんな枠を超え活躍する。前川さん自身が雲のような人である。

次世代に継承していく仕組み作りにも積極的に参画

前川大地

Daichi MAEKAWA

1977年、南砺市井波町生まれ。2000年、愛知県立芸術大学美術学部彫刻専攻卒業。同年、井波美術館個展「1977-2000」。2005年、父・前川正治に師事。2018年、福光美術館 グループ展「第4回ザ・セッションアートの俊英展」。2019年、ジソウラボ参画。2022年、松屋銀座 シャンデリア制作。その他、富山クラフトミクス参画、グループ展参加など多方面にて活躍をみせる。