ARTIST INTERVIEW VOL.09

ガラス作家 安田泰三

孤高の先にある ガラスの小宇宙

「面白そう」。富山に初の公立のガラスの学校ができると知り、当時、神戸の高校3年生だった安田泰三さんは思った。特にガラスに興味があったわけでもなかったが、若い好奇心と行動力で1990年、「富山ガラス造形研究所」造形科第1期生となる。在学中はこの道で生活していけるとは思っていなかったという。1期生ということもあり、周りに指針となるガラス作家の先輩もいなかった。が、卒業と同時に採用枠わずか4名という富山ガラス工房のスタッフとして採用された。これが一つのターニングポイントになったと振り返る。3年後には工房を開き、ガラス作家として独立。現在は、多くの作家が集まる岩瀬の趣ある街並みの一角に工房とギャラリーを構える。

作品が並ぶギャラリー。見学は予約制。

オリジナルのレース棒や大小さまざまな気泡を巧みに配置した安田さんのガラス。繊細なレースのグラスや心躍るカラフルな食器類、暖かな光を放つランプシェード。そして息を呑むほどに精緻で優美なオブジェ。作品それぞれに高い技術とセンスに裏打ちされた美が宿る。国内外の名だたるコレクターや美術館の所蔵になった作品も多数。そんな彼の作品に魅了された飲食店からの食器をはじめ、ホテル、公共施設からのオブジェのオーダー、さらに個展のための作品制作などでスケジュールは常に詰まっている状態だという。それでも、「自分で納得する作品を自分のペースで作りたい」と、スタッフを雇い行っていた分業制をやめ、今はたった一人で炉の前に立つ。

レース文様花入

多忙極める日々のなかにあっても新しいデザイン、新しい技術に挑戦し続ける。「例えるなら、料理人と一緒。定番メニューだけではなく、季節や食材によって新しいレシピを考案するように、作りたいと思う作品によって感性や技術を磨くのは当然のこと」だと。たとえ自分の手元に残しておきたいような傑作が出来上がっても、“いいものから手放す”を肝に銘じる。「そうじゃないと、それ以上の作品ができなくなる」という恩師の言葉が念頭にあるからだ。

ガラス制作の技法が凝縮されたオブジェ。

絶えず高みを目指す姿勢の陰には、「手に取った人に喜んでもらえるものを作りたい」との思いがある。覚悟を決め、新たなステップを踏み出す度に、いろいろな人に背中を押され、支えられてきたという。30数年前、安田青年が「面白そう」と飛び込んだガラスの世界には、彼の手を通して生み出される幾多のまだ見ぬ傑作が、静かにその時を待っている。

“レースガラスの魔術師”の異名をもつ安田さん。

安田泰三

Taizo YASUDA

1972年、神戸市生まれ。1993年、富山ガラス造形研究所造形科第1期卒業。翌年、同研究科第1期卒業。1997年、Taizo Glass Studio設立。1996・2001年、富山市美術展 大賞。2008年、第1回現代ガラス大賞展 優秀賞。2010年、日本伝統工芸富山展 富山県教育委員会賞。その他、百貨店、美術画廊にて個展を多数開催。上海芸術礼品博物館(中国)、富山市ガラス美術館、大一美術館、平山郁夫シルクロード美術館、驪州世界生活陶磁館(旧パンダル美術館/韓国)など、世界各地の美術館にも作品が収蔵されている。 ※ギャラリーは事前予約制 住所:富山県富山市東岩瀬町102/TEL:076-426-9340