ARTIST INTERVIEW VOL.15
金属造形作家 釋永 維
金属の可能性を信じて創る
戦前に建設され、国の登録有形文化財でもある富山電気ビルデイング。改修工事を終えた2025年12月、本館5階大ホールの南ロビー左右の壁面に、一対の金属造形作品が設置された。『Eternity in Flow 流 』と題された作品は、湾曲させた真鍮の線を組み上げ、風をイメージし、外界の時の流れを表現。『Echo in Mind 響 』は、銅板に無数の点を穿ち鍛金で抑揚をつけたパーツを幾重にも重ね構成し、人の内界を流れる時間やエネルギーを表している。金属であることを忘れさせる、やわらかく軽やかな一対の作品は、呼応し合いその場の時間や空間に静かな律動をもたらしている。

作者は気鋭の金属造形作家・釋永維さん。「こうした歴史あるパブリックスペースへ、このサイズ感の立体を納めたのは初めてでした。作品の完成により表現の幅が広がり、技術面でも大きな自信になりましたね」。思い入れの深い作品になったのと同時に、作家としての成長に繋がったことも大きかったようだ。

「私は想像できないものに興味があって、金工はどうやってカタチにするのか分からなかった」。だから大学進学時には、直感的に「面白そう」と金属工芸を専攻した。家族全員が陶芸家という芸術一家の中でひとり、高岡銅器の街で金工の道へ踏み出した。
大学卒業後は大手宝飾会社に勤め、原型制作に携わった。いつしか心に「制作した形の善し悪しを自分で判断したい、納得する形を知りたい」との思いが膨らみ始めた。また「受け手との距離がもっと近くありたい」と、感じてもいた。今は作家として、「作品というフィルターを通して人と関われる」と、創作の豊かな時間を実感している。
維さんの眼差しは、金属が持つ時間軸にも向けられている。経年変化していく様は、まるでイキモノのようだという。強靭な素材であるからこそ、脆さを孕んだ造形から強さを纏う表現までを自在に操ることができる。また手を通した証として、ひずみや不均一さはあえて消さないなど、独自の感性を持って制作する。制作中のハプニングは次の課題として、新たな形を生み出す要素と前向きに受け止め、それも自分の作品らしさになると考えている。そこには、金属造形に対する厚い信頼と愛情が垣間見える。

金属が素材と思えない風合いの建水 縁を切り突起を耳とした
彼女の作品の特徴のひとつに「錫釉銅(すずゆうどう)」がある。陶芸の釉薬が窯の中で炎の力によって景色を生み出すように、あえて自然に委ねる要素を取り入れている。その作用として、作品には思いがけない表情が静かに浮かび上がるという。こうした手法は、幼い頃から身近に感じてきた陶芸がヒントとなった彼女ならではの表現法だ。静と動が同時に息づく造形は、ひそやかな緊張をまとう。金属という素材から想像される冷たさや硬さがそっと影を潜め、むしろ、どこかやわらかく感じられる。

最近、ひさしぶりに装身具も作り始めたと話す維さん。まだ誰も知らない金属の美しさを彼女なら見出してくれることは想像に難くない。
釋永 維
Yui SHAKUNAGA
1981年、富山県立山町生まれ。2002年、高岡短期大学(現・富山大学芸術文化学部)産業造形学科金属工芸専攻 卒業。2004年、同大学専攻科産業造形専攻 修了。ミキモト装身具 原型制作課に勤務(~2013年)。2016年、金沢卯辰山工芸工房 修了後、独立。県内外のギャラリーで作品を発表している。富山電気ビルデイング、The Ritz-Carlton東京等に作品収蔵。