ARTIST INTERVIEW VOL.05

ガラス作家 小路口 力恵

触れて視る ガラスの世界

2025年4月、石川県内のギャラリーで開催された小路口さんの個展。蔵を改造した小さな空間には彼女ならではのやさしく、柔らかなガラスの世界が広がっていた。これまでに生み出してきた「ふくら」や「はつり」「くもい」シリーズに混じって、再度手を加えた「あまもよい」もディスプレイされ、それぞれの個性を輝かせていた。

「はつり」の器。中に入れるもので千変万化する表情が魅力

彼女が富山ガラス工房のスタッフ時代から制作を続けている代表作「ふくら」。その名の通りふっくらと柔らかく光を包みこみ、ガラスなのに不思議とぬくもりを感じる作品だ。吹きガラスで生地を作り、研磨機で削っては手で触れ、手で視て、手で感じながら作る。こうして生み出される和紙のような肌合いが印象深い。そこから派生した「はつり」は削った表面をさらに磨くことで亀甲や縦縞模様を浮かび上がらせる。磨きのわずかな手加減で趣も大きく異なる。一方、不定形な形が面白い「くもい」や雨だれが一瞬で凍りついたような「あまもよい」は、ガラスらしい透明さの中にも温かさを感じさせる。すべての作品に共通するのは、観た人なら誰でもが「触れてみたい!」と思うような、質感やフォルム。

「あまもよい」。それぞれ表情の異なる雨粒が幻想的

小路口さん自身、「手で視てほしいので、展覧会ではなるべく触ってもらうようにしています」と語る。視て、触って、使う。身近に接すれば接するほど愛着が増すのが彼女の作品だ。長年に亘って作品を観てきたギャラリーのオーナーは、その魅力を「何かと出合って初めて完成されるところ」と話す。花器なら植物や水、器なら料理など、なにと組み合わせてもシックリ馴染み、美しく変化する大らかさのようなものをもっている。オーナー曰く、生真面目な彼女がこうした柔らかな質感やフォルムのガラス器を作るそのギャップも面白いのだとか。さらに「作品に対して筋が通っている」と一言。

「はつり」は削ったのち耐水ペーパーで磨いて模様を浮き立たせる

それは「今あるものを大切にずっと作りたい」という小路口さんの言葉にも表われている。無理をして新しいものを作る自分は嫌だとも。新しいものは自然に作りたくなるタイミングを待つのだと笑う。なんとも彼女らしい真摯で素直なガラスとの向き合い方だ。どこかで彼女の作品に出会ったら、ゆっくりと手で視て愉しんでほしい。

個展を開催したギャラリー前で作品を手にする小路口さん

小路口 力恵

Rikie SHOJIGUCHI

1972年、富山県富山市生まれ。1998年、富山ガラス造形研究所 造形科卒業。2000年、富山ガラス造形研究所 研究科修了。富山ガラス工房所属(~2003年)。2003年、あさひふるさと創造社 なないろKAN硝子工房所属(~2005年)。2005年、‘‘小路口屋’’硝子工房設立し現在に至る。2002年、日本現代ガラス展 能登島 金賞受賞。2011年、第5回「酒の器展」金賞受賞。2014年、第53回日本伝統工芸展 富山展 奨励賞受賞など。2016年、LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 富山の「匠」として選出された。        Instagram:@shojiguchi.rikie