ARTIST INTERVIEW VOL.01

和紙作家 川原 隆邦

和紙による新たな表現方法を探求。
伝統技術を次代に。

原材料の楮やトロロアオイを自ら栽培する古来のやり方を守っている。紙を漉くのは冬。春から秋にかけては畑の手入れをしながら作品の構想を練る。すべてを一貫して手掛けているからこそ表現も自由自在だ。和紙による新たな表現を探求し、その価値を高めようと取り組んでいる。

富山県民会館1Fロビー

実用品としての用途を失った和紙は、その伝統的な価値や風合いが見直されて建物の内装など新しい分野での引き合いが増えている。富山市ガラス美術館の壁紙を手掛けたほか、立山杉の表皮を漉き込んだ和紙が富山県民会館ロビー柱の合わせガラスに使われている。「環境保全やサスティナビリティーが重視される時代になり、かつて周回遅れだったランナーが今は先頭に立っている。和紙に馴染みの薄い若い世代にも新しい素材として受け入れられている」と言う。

富山県防災危機管理センター1F

2017年のU-50 国際北陸工芸アワードでは、極薄和紙の組み合わせで玄武、青龍、朱雀、白虎を浮かび上がらせる「四次元展開図」がグランプリを受賞した。光や空気の揺らぎをも表現の一部にしてしまうアート性が評価され、近年は大型施設のエントランスなどを装飾する作品の依頼が相次いだ。大阪・関西万博の各国の賓客を迎える迎賓館を彩る、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の企画で宇宙を表現する作品の制作といったプロジェクトも進行中だ。異分野、異業種との交流を刺激にしながら活動の幅を広げている。

地下鉄虎ノ門駅・入口(東京)

中山間地の農地で獣害が深刻化しており、和紙の原材料にも被害が及んでいる。対策として立山町の市街地近くでトロロアオイの栽培を始めた。「原材料の栽培に新たな人が携わり、和紙に関心を持つ『関係人口』が増える意義は大きい。和紙づくりの拠点が広く分散化することで技術が残る可能性も高まる」と期待。駆け出しのころ副業として富山市ファミリーパークに勤めた経験があり、種の保存に貢献する動物園の役割に共感した。「私は変異種かもしれないが、和紙の可能性を掘り起こし、『面白いね』と興味を引くことで先人からの伝統と技術を次の世代につないでいきたい」。使命感も胸に打ち込んでいる。

有磯紙(国際工芸アワードとやま2020)

川原 隆邦

Takakuni KAWAHARA
富山県中新川郡立山町虫谷28

1981年、富山県生まれ。「蛭谷和紙」(朝日町)の唯一の継承者。2003年に最後の職人だった米丘寅吉氏に師事し、川原製作所を開設。15年、立山町虫谷に作業場を移転した。20年竣工の虎ノ門グローバルスクエア(東京都港区)、23年竣工の富山県防災危機管理センター(富山市)のエントランスにも作品が飾られている。