ARTIST INTERVIEW VOL.03

ガラス作家 Peter Ivy

それはただシンプルに美しい

部屋の中央に吊されたランプシェード、食卓に置かれたグラス、棚に収まるお米のジャー。ピーター・アイビー氏の創り出すガラス器は、装飾をそぎ落としたのちに現れる端正な美しさを湛えている。

Pendant Light / Mirror

機能的であると、ガラスであれば尚更に無機質な冷たさが表に出てきそうなものだが、感じるのはむしろ体温的なあたたかさだ。「(作家は)ものが見えないといけない、パーフェクトじゃなくても、そのほうが良かったりする」とアイビー氏。ガラス作家は高い技術で正確に作ることのみが重要なのではないと語る。揺らぎとでも言えばよいのだろうか、微妙な誤差があるからこそ、生まれる美しさと温かな風合い。その境界が見えることが大切なのだと。

工房の棚に並ぶ作品。ピーターワークスとKOBOシリーズの2つの作品ラインがある

「仕事と生活は密着している」とも。自分が欲しいと思うものを形にした『Okome Jar』は生活の中から生まれた作品だ。これに続くシンプルで機能的な『Pasta Jar』、『Coffee Jar』は国内外で人気のシリーズとなった。作った器は必ず使ってみる。中に入れた食材や料理が引き立つことや使いやすさなど、生活に取り入れて気付く点をチェックする。自然と作品には機能性や技術に裏打ちされたデザイン、形の美しさが備わる。装飾品にはない「用の美」が現れる所以である。

カエデの木枠とガラスで作られた『Ojyu』

アイビー氏のガラスは極めて薄く、淡いグレー色をしている。照明ならば光を、器ならば食品の存在を浮き立たせる。作品単体ではなく何かと出会うことで互いの美しさが際立つことを意識しているという。同様にガラスに異素材を合わせる試みもさまざま行う。ジャーを縁取る金属製のワイヤーやランプシェードを支える銅のパーツ、お重(『Ojyu Box』)の木枠など、ガラスの特性がより鮮明になる組合せの妙がある。また、ワイヤーのように、無くても機能的に問題ないがパチンと開閉することで使う人の心(フィーリング)に響くことも大切な要素であるという。

作品はパーツごとに溶けたガラスを吹いて作る。唯一無二、まさにハンドメイドの一品

こうした発想が生まれるのには、ガラス以外の影響が多い。音楽や読書、映画など、他のさまざまなものに触れることで感性が磨かれる。だから、ガラス作家を目指す若者には「ガラスだけにならず、自分の趣味を頑張りなさい、たくさん美しいものをエンジョイしてください」と笑顔で語る。

吹きガラスは共同作業。工房のスタッフと

富山の里山の地を拠点に、一つ一つ自らの手で生み出し、日常に息づくガラス作品を世に送り出してきたアイビー氏。ここでの生活からまた新たな表情、美しさ放つ作品を生み出し、見せてくれるのだろう。

Peter Ivy

ピーター・アイビー

米国、テキサス州オースティン生まれ。高校卒業後、車関係や大工の仕事に従事。後にロードアイランド州の美術大学に進みデザインを学ぶ過程で吹きガラスの授業を受講。その魅力に惹かれてガラス工芸の道に進む。マサチューセッツ芸術大学の非常勤講師などを経て2002年来日、愛知教育大学ガラス科で教鞭をとる。2007年富山県に移住。現在、工房「FLOW LAB」にてスタッフに技術を教えながら、共に作品の制作に励む。